第10回大会:第3次審査の課題曲を知る
柴田克彦/音楽ライター
第3次審査の課題曲の3つのグループには、それぞれ明確な特徴がある。
(1)はフランスの小品。しかも全てパリ音楽院の卒業試験の課題曲だ。作曲されたのは、1898年から1908年の間。これは名奏者タファネルが教授を務めていた時期にあたる。ちなみに当時のパリ音楽院では、卒業試験のための新作が著名作曲家に委嘱されており、おかげで(他の楽器も含めて)数々の佳作が誕生している。これらは試験用ゆえ、約5~6分の短い曲の中に多様なテクニックや表情が盛り込まれている。概ね前後半で曲想が変わり、テンポも随時変化する。すなわち奏者の腕前と音楽性が端的に示される。加えて近代フランス音楽特有の軽みや粋な風情といった、いわゆるエスプリも求められるだろう。それにしても試験用に書かれたこの4曲が 現在も演奏会用ピースとして高い人気を保っている点に驚かされる。それは各曲が音楽的に優れていることの証しであり、聴き手が曲自体をストレートに楽しめることを意味してもいる。
(2)は独墺作曲家による長めの本格作。カーク=エラートは近代ドイツの作曲家で、今回のソナタは急-緩-急の3楽章が切れ目なく続く。マイヤー=オルバースレーベンはドイツ後期ロマン派の作曲家で、「ファンタジー・ソナタ」は急-緩-急の3楽章から成り、中でも緩徐楽章が美しい。3曲の中で飛び抜けて有名なシューベルトの「しぼめる花」変奏曲は、歌曲の主題に7つの変奏が続く華麗な作品。いずれもロマンティックな音楽だ。演奏時間は約15分から20分ほど。テクニックや歌い方に加えて、曲の構成力が重要なポイントとなる。また、こうしたソナタ系の作品ではピアノが重要な働き(特に「しぼめる花」は大活躍!)をするので、パートナーとの呼吸やバランスも注目点。つまり奏者は総合的な音楽性が試され、聴き手はデュオの妙味に触れられる。
(3)は無伴奏の現代作品。ベリオの「セクエンツァ」(1958)は、14ある同名作品中、最初に書かれた曲で、現代物の中では古典的な存在。ファーニホウの「カッサンドラの夢の歌」(1970)は、2枚の楽譜で構成され、1枚目の1~6番の間に、2枚目のA~Eを任意の順番で挟む趣向になっている。一柳慧の「忘れ得ぬ記憶の中に」(2000)は、第5回神戸国際フルートコンクールのための委嘱作。題名は神戸の震災を意味している。イサン・ユンの「エチュード」(1974)は5曲あり、通常のフルート用は第1番と第5番。この内、より大規模な第5番の演奏機会が多い。当グループは、伊、英、日、韓と作曲者の出身国が多彩で、現代音楽界の有力者ファーニホウ、日本の大重鎮・一柳慧という現役作曲家も含まれている。演奏時間は大体6~7分で、特殊奏法が多く盛り込まれ、記譜法も様々。最高度の技巧と鋭敏な感性や創意が求められるし、無伴奏ゆえに奏者の全てが反映される。そこが興味深い。
そして(1)〜(3)を通せば、聴き手はフルートの諸相を味わえる。