第10回大会:第2次審査の聴きどころ
飯尾洋一/音楽ライター
第2次審査で演奏される課題曲はふたつのグループに分かれている。グループ1はバロック期から前古典派に至る古い時代の作品、グループ2は近現代を中心とした作品で、各奏者がそれぞれ新旧の時代の作品を一曲ずつ選択することになる。
グループ1に並ぶのはカール・フィリップ・エマヌエル・バッハとルクレールのソナタ各2曲。エマヌエル・バッハは有名な大バッハの次男で、生前は父親をもしのぐ成功を収めた。フルートを愛好したフリードリヒ大王のもとで長く宮廷音楽家を務めたこともあり、フルートのための作品は少なくない。作風は父を受け継いだというよりは、次代への扉を切り開くもので、「多感様式」と呼ばれる主観性の強い感情表現を特徴とする。大胆さや意外性、冒険心がエマヌエルの魅力だ。両曲とも「急─緩─急」の3楽章構成。
ルクレールはフランス・ヴァイオリン楽派の祖として名高い。ヴァイオリンの名手としてパリをはじめ欧州各地で活躍し、高度の技巧を必要とする多数のヴァイオリン曲を作曲した。その一部はフルートでも演奏可能とされていることから、フルート奏者にとっても貴重なレパートリーとなっている。両ソナタとも「緩─急─緩─急」の4楽章構成となっており、緩徐楽章のエレガンスやメランコリーと、急速楽章にみなぎる生命力と躍動感が鮮やかなコントラストを描く。
グループ2に並ぶのは、アンデルセン、ボザ、デュティユー、ジョリヴェの4人の作曲家の作品。アンデルセンはこのなかでは唯一、19世紀の作曲家で、デンマークに生まれ、ベルリン・フィルのフルート奏者としても活躍した。演奏会用小品第2番は情感豊かでドラマティック。
他の3人はいずれも20世紀の作曲家だ。ボザはパリのオペラ=コミック座の指揮者を務めた作曲家で、室内楽を中心に作品を残す。「アグレスティード」とは「田園風」の意。技巧的でありながら、幻想味にもあふれる。
デュティユーは20世紀後半のフランスを代表する作曲家のひとり。1943年作曲の「ソナチネ」は初期の作品で、作曲家本人は後に作品に対して批判的な態度をとったにもかかわらず、フルートの人気作に定着した。「急─緩─急」の簡潔な3楽章構成で、8分の7拍子の第1楽章で始まり、穏やかな第2楽章を経て、スピード感あふれる第3楽章へと向かう。
ジョリヴェもフランスの作曲家だが、その作風は独特だ。一言でいえば呪術的、あるいは魔術的。リノスとはギリシア神話に登場する竪琴の名手で、音楽にかけてはアポロンより自分が勝ると慢心したことから神の怒りに触れて殺されたとも、ヘラクレスに音楽を教える際に腹を立てて叩いたところ、逆に殴打されて殺されたとも伝えられる。ジョリヴェはそんなリノスを題材に「葬送の悲歌、叫びと踊りが交錯する哀歌」としてこの作品を書いた。アルカイックな曲想が聴く人の想像力を刺激する。